練習法・テクニック

運動神経が悪くてもダンスは踊れる|苦手克服の練習法

更新: 森山 遥
練習法・テクニック

運動神経が悪くてもダンスは踊れる|苦手克服の練習法

「運動神経が悪い」とは、ダンスができない人の固定的な烙印ではなく、身体を巧みに動かすための複数のコーディネーション能力のうち、どこでつまずいているかを見極めるための言い方です。

「運動神経が悪い」とは、ダンスができない人の固定的な烙印ではなく、身体を巧みに動かすための複数のコーディネーション能力のうち、どこでつまずいているかを見極めるための言い方です。
リズム・バランス・変換・反応・連結・定位・識別という7つの要素のうち、ダンスで主に使うのはリズム・連結・定位の3つに限られ、体育の授業で苦手意識を持った球技や跳び箱、鉄棒とは必要な能力がそもそも違います。
「運動神経が壊滅的なんですが大丈夫ですか」と体験レッスンで申し訳なさそうに聞く大人は、この12年で数え切れないほどいましたが、そのほぼ全員が3ヶ月後には8カウントを音に乗せて踊れるようになりました。
現場で見えてきたのは、上達を決めるのは才能の有無ではなく、頻度を優先した練習設計だということです。
この先では、音とズレる・振りが覚えられない・動きが硬く見えるという3つの症状を分けて考え、8カウント単位の分習法や0.5倍速、裏拍を膝で刻む練習のように、今日から試せる手順へ落とし込みます。
精神論の反復だけに頼らず、基礎が安定するまで約3ヶ月かかる前提で進めれば、1〜2週間で自分に見切りをつけずに済みます。

「運動神経が悪い」はダンスの上達を決めない

「運動神経が悪い」という言葉は、ダンスの向き不向きを雑に決めるには粗すぎます。
身体を巧みに動かす力は、リズム・バランス・変換・反応・連結・定位・識別の7つに分けられるので、どこが弱いのかを見ないまま全部をひとまとめに否定しても、上達の糸口は見えてきません。
ダンスで実際に使う要素はそのうちの一部に限られるため、体育の印象だけで「自分は無理だ」と判断する必要はないのです。

「運動神経」の正体は7つの能力の寄せ集め

身体を素早く、しかも思い通りに動かす力は、ひとつの才能ではなく、7つのコーディネーション能力の組み合わせです。
リズム、バランス、変換、反応、連結、定位、識別に分けて見ると、球技で問われるものと、ダンスで問われるものがまったく同じではないとわかります。
つまり「運動神経が悪い」と感じている人でも、苦手なのはその中の一部だけ、ということが珍しくありません。

ダンスが使うのは7つのうち3つだけ

ダンスで中心になるのは、音に合わせるリズム能力、複数の部位を同時に動かす連結能力、自分と空間の位置関係をつかむ定位能力です。
飛んでくるボールに瞬時に反応したり、道具を正確に操作したりする反応能力や識別能力は、少なくとも初心者が最初に身につける土台ではありません。
体験レッスン初日に「学生時代、球技は全部補欠でした」と話した30代の生徒が、アイソレーションの首の動きだけは初回から驚くほどきれいにできたことがありましたが、あの場面はまさに、球技に必要な反応とダンスに必要な連結が別物だと示していました。

球技が苦手な人ほどダンスで伸びしろがある理由

体育の成績が悪かった記憶は、球技、跳び箱、鉄棒で作られていることが多いです。
けれどもそれらは反応能力、識別能力、バランス能力が主役の種目で、ダンスとは必要な能力セットが違います。
部活でサッカーをやっていた高校生が、リズムのキープだけは半年間ずっと苦戦したこともありましたし、逆に運動経験が少ない人ほど、変な自己流のクセがない分、基礎から素直に積み上げやすい面があります。
目や耳から入る情報を脳で処理して身体に落とし込む神経回路は、使った回数で太くなります。
神経系が最も伸びやすいのは12歳頃までとされますが、大人は理屈を理解して練習を組み立てられるので、ゼロから形を作る強さで十分に補えます。

苦手の正体を3タイプに切り分ける

「踊れない」は、実際には3つの違う苦手が混ざっていることが多いです。
音とズレるのか、振りが頭に入らないのか、動きが硬く見えるのかで、練習の打ち手はまったく変わります。
だから最初にやるべきなのは気合いではなく切り分けで、スマホ動画を使って自分の状態を見える形にすることです。
思っている弱点と本当の弱点は、しばしば別物でした。

タイプA:音とズレる

タイプAは、手足の順番は合っているのに音から先走る、あるいは遅れる状態です。
原因は身体の不器用さより、音楽をBGMとして流してしまい、動きの基準になるドラムとベースを拾えていないことにあります。
初心者は表拍だけを追って裏拍が抜けやすく、そこでズレが積み上がる。
生徒に動画を初めて見せると9割が固まりますが、音とのズレだけを見るようにすると、自分で位置を指摘できるようになります。

このタイプの自己診断は、同じ8カウントを正面と斜め45度から撮るとやりやすいです。
見るのは、音より先に動いていないか、遅れていないか、どのカウントでズレ始めるかの3点だけ。
感想ではなく観点を固定すると、落ち込みに引っ張られずに原因へ辿り着けます。
膝で裏拍を刻む練習を入れ、ドラムとベースに意識を寄せてみてください。

タイプB:振りが覚えられない

タイプBは記憶力の問題に見えて、実際は同時処理量の超過です。
ステップ、方向、手、表情まで一気に処理すると、拍への意識が最初に落ちる。
レッスンで「振りが覚えられません」と相談してきた生徒の動画を撮ると、全部入っているのに音に対して半拍遅れているだけ、ということは珍しくありません。
本人の申告と実態がずれるのは、覚えることと動くことを同時に背負いすぎるからです。

対処は、8カウント単位で切って、足だけ、手だけ、最後に合わせる順で分けることです。
1カウントずつ言語化し、0.5倍速で再生し、数日以内に復習すると、頭の中の負荷が下がります。
ここで大切なのは「全部を一度にできるか」ではなく、何が先に崩れるかを特定すること。
崩れる地点がわかれば、練習は一気に組みやすくなります。

タイプC:動きが硬く・ダサく見える

タイプCは、順番も音も合っているのに、なぜか見え方が弱い状態です。
ここで効いてくるのが軸と定位で、体の中心が通っていると同じステップでもキレと安定感が出ます。
アイソレーションは大きく動かすことより、動かしたい部位以外を静かに保つことが核心です。
関節の可動幅だけを増やしても、軸がぶれると見え方は整いません。

動画では、関節がどれだけ動いているかを見ますが、同時に止めるべき場所が止まっているかも確認してください。
斜め45度から撮ると、胸や骨盤の傾き、重心の逃げ方が見えやすくなります。
AやBが残ったままCだけを伸ばそうとすると伸び悩むので、まず土台を揃える流れが自然です。
3タイプが重なる場合は、リズム、振り覚え、見え方の順に手を付けるのが近道になります。
リズムが不安定なまま振りを増やしても音には乗れず、音に乗れないまま動きを大きくしても見た目は変わりにくいからです。

診断は一度で終わりではありません。
3ヶ月ごとに同じ曲、同じ角度で撮り直すと、練習でAが解消してCが表に出るような変化が見えてきます。
全部ダメと感じていた人でも、1項目ずつ切ると、たいてい1つか2つはすでにできている。
できている部分を先に確定させると、練習の優先順位も継続のしやすさも変わってきます。

タイプA:リズムのズレを直す|音の聴き方から変える

リズムのズレは、まず耳の使い方を変えるだけで直り始めます。
メロディや歌詞を追う聞き方のままだと、動きの基準になるドラムとベースを取りこぼしやすいからです。
表拍だけで動いて裏拍が抜ける癖も、聴く対象を絞って身体に入れ直すとほどけていきます。

音楽を「聞き流す」から「ドラムを聴く」へ

音とズレる人の大半は、身体そのものより音楽の聴き方に課題があります。
BGMとして聞き流していると、耳はメロディや歌詞に引っぱられますが、ダンスの土台になるドラムとベースは薄くなりがちです。
まずは曲全体を追うのをやめて、ドラムとベースだけを聴く時間をつくってみてください。
音の芯が見えると、動きの置き場所が変わります。

裏拍を膝で刻む10分メニュー

初心者は表の拍だけを追ってしまい、拍と拍の間にある裏拍が抜けやすいです。
表拍で動くと動きが「置きにいく」形になり、いわゆるノリが出にくくなります。
そこで、まずは音楽なしでカウントだけ取りながら膝を曲げ伸ばしし、裏拍を体に覚えさせます。
慣れてきたら曲に合わせ、同じ膝の動きを保ったまま音の間を埋めていくと、動きが前に走りにくくなります。

筆者自身、ヒップホップを始めた大学1年の頃は表拍でしか動けず、先輩から「音が聞こえてない」と言われ続けました。
歯磨きの間だけ裏拍を膝で刻む習慣を3ヶ月続けたら、ある日レッスン中に急に裏が取れるようになったのです。
段階的に少しずつではなく、ある日突然できるようになる感覚でした。

1回の練習量より、毎日触れる頻度のほうが定着を左右します。神経回路は使う回数で太くなるので、1日10分×毎日の方が1日2時間×週1回より積み上がりやすいのです。

自宅でのリズムトレーニングと週1回のレッスンを併用した場合、リズムが安定してくる目安は約3ヶ月です。
この期間は「まだズレている」が正常で、1ヶ月で判断しないほうがいいでしょう。
まとまった時間が取れない社会人ほど、短くても切らさない練習が効いてきます。

歯磨き・通勤に混ぜる日常リズム習慣

リズム練習は、生活の中に混ぜると続けやすくなります。
歯磨きのシャカシャカという音に合わせて膝で小さく刻む、通勤中にイヤホンでドラムだけを聴く、といった形なら1日10分は確保できます。
スタジオでしか練習できない、という思い込みを外すことが最初の一歩です。

ただし、膝でリズムを取ろうとしても太もも前側の筋力が足りないと、曲げ伸ばしのタイミングが意図より遅れていきます。
この場合はリズム感だけの問題ではなく、身体が指示に間に合っていない状態です。
軽いスクワットを並行させると、膝の反応がそろいやすくなります。
おすすめです。
日常のすき間で刻み、必要なら脚も整えながら、少しずつ音に乗る感覚を育ててみてください。

タイプB:振り付けを覚える|分習法と0.5倍速

振り付けが入らない原因は、記憶力の弱さではなく、同時に処理している情報量の多さにあります。
ステップ、進行方向、手の動き、顔の向き、表情まで一度に追おうとすると、最初に落ちるのが拍への意識です。
だから「覚えられない」と「音とズレる」は、同じところで起きている現象だと考えると整理しやすくなります。

8カウント単位に切って詰め込みを止める

対処の第一手は、振りを8カウント単位に切ることです。
1曲を丸ごと覚えようとすると、初心者には処理量が多すぎます。
8カウントなら、その区間だけに注意を向けられるので、脳が「次は何だっけ」と迷う回数を減らせます。
レッスンで詰まる人ほど、ひとまとまりを小さく切るだけで動きが見えやすくなるものです。

手だけ・足だけに分ける分習法

第二手は分習法です。
同じ8カウントを、まず足だけで通し、次に手だけで通し、最後に合わせる三段階に分けます。
実際、振りが入らない生徒に手を全部下ろして足だけで通してもらうと、一発で踊れたことが何度もあります。
その人は「覚えられない」と言っていましたが、足の振りは入っていて、手を足した瞬間に足の記憶が飛んでいただけでした。
筆者がYouTubeの基礎講座を作るときも、初心者向けの回は必ず「足だけ」「手だけ」「通し」の3ブロック構成にしています。
この形にしてから、コメント欄の「覚えられない」は目に見えて減りました。

口に出すカウントと復習のタイミング

第三手は言語化です。
「1で右手を上げる」「2で左足を前」と、1カウントずつ声に出してみてください。
動きを言葉にすると、身体が忘れても言葉から復元しやすくなります。
動画で覚えるなら0.5倍速で再生し、カウントを口に出しながら確認するのがおすすめです。
等速のまま何度も見るだけだと、覚えているのではなく眺めているだけになりやすいので、耳と口を使って確認しましょう。

復習のタイミングも定着を左右します。
習った振りは数日以内に一度通すのがよく、レッスン当日の夜に5分だけ復習するだけでも違いが出ます。
1週間空けてから思い出そうとすると、復習ではなく覚え直しに近い手間になるからです。
自分専用のカウントを作って、誰かに教えるつもりで喋ってみてください。
動きが言葉として残り、次に踊るときの足場になります。

タイプC:動きが硬く見える|軸とアイソレーション

動きが硬く見えるとき、まず疑うべきなのは手足の順番ではなく、身体の中心に軸が通っているかどうかです。
同じステップでも軸が保てるとキレと重心の安定感が変わり、逆に軸が抜けたまま動きを大きくすると上体が振られて見え方が乱れます。
派手に見せる前に、地味な軸づくりを通すかどうかで印象は変わるでしょう。

軸が通っていないとステップが浮く

順番も音も合っているのに硬く見える人は、動きの量を増やす前に軸を整えたいところです。
片足立ちで骨盤の高さを保つ、頭の位置を動かさずに膝だけを曲げる、といった小さな練習は地味ですが、身体の中心を崩さずに重心を運ぶ感覚を作ります。
ここが曖昧なまま振りを足しても、動きは大きいのに浮いて見えるだけになりやすいです。

実際に、軸を教える場面で最初は「胸が動いてもいいから大きく」としていた時期がありました。
すると、確かに幅は出るものの、胸ごと揺れる生徒が増えました。
そこで「幅は指1本分でいいから胸を止める」に切り替えると、3ヶ月後には見え方がはっきり変わりました。
分離より先に幅を追うと崩れやすい。
逆に言えば、軸が先に通るだけで同じステップが締まって見えます。

首・胸・腰を1部位ずつ動かす

もう1つの硬さの原因は、身体が1枚の板のように連動してしまうことです。
アイソレーションで首・胸・腰を1部位ずつ独立して動かせるようになると、動きの中に段差が生まれ、立体感が出ます。
鏡の前で1部位30秒、他の部位を止めることから始めると、どこがつられて動いているのかが見えやすくなります。

アイソレーションは可動域の大きさを競う練習ではありません。
他の部位まで一緒に動いてしまうくらいなら、幅が小さくても分離できている方が見た目は整います。
初心者ほど「大きく動かしたい」と感じやすいですが、そこで欲張ると連動が先に強くなり、かえって硬さが目立つのです。
首を教えるときに「大きく」と言っていた時期はその失敗が出やすく、指示を「胸を止める」に変えたあとで質が上がりました。

撮影して「昨日の自分」とだけ比べる

自己評価はスマホ撮影が使いやすいです。
ただし、比べる相手は「昨日の自分」に限った方がいいでしょう。
上級者や講師の動画と並べると差が大きすぎて、「全部ダメ」としか見えず、直す点を1つも拾えなくなります。
同じ角度、同じ曲で撮って、変わった箇所を1つだけ見つけて終える。
この反復が、継続を途切れさせない見方になります。

実際、動画を見て落ち込み、やめそうになった生徒に3ヶ月前の同じ曲の動画を並べて見せたことがあります。
本人が「これは別人ですね」と笑った瞬間から、練習が続くようになりました。
比較相手を過去の自分に変えるだけで、評価は修正に変わります。
撮影の目的は採点ではなく、変化を1つ拾うことです。
そこから次の練習が組み立てやすくなります。

続かない・伸び悩むときの対処と上達の目安

3ヶ月を過ぎるころに、リズム取りや重心移動、簡単なステップが少しずつ安定してきます。
一通り踊れるようになるまでを3ヶ月〜1年で見るのは、そのくらいの時間をかけてようやく動きがつながり始めるからです。
最初の1〜2ヶ月で「自分には無理」と切ってしまうと、実力ではなく目安の誤解でやめてしまうことになります。

3ヶ月で自分を判断しない

12年間で最も多く見た離脱理由は、「才能がない」ではなく「思ったより時間がかかる」でした。
逆に、最初に3ヶ月・半年・1年でここまで、と目安を伝えた生徒は継続率が明らかに高いのです。
期待値を先に置くと、できない時期を失敗ではなく通過点として受け止められます。
3ヶ月目前後に「前より下手になった気がする」と相談してきた生徒も数十人いましたが、全員に同じことを伝えてきました。
下手になったのではなく、下手だったことに気づけるようになっただけだ、と。

頻度から逆算する練習設計

練習は時間からではなく頻度から逆算するのが基本です。
週に何時間やるかを先に決めるより、週に何日触るかを決め、その日数を守れる最小の時間を割り当てた方が続きます。
予定が崩れた日は5分でも、音を聴くだけでもかまいません。
ゼロの日を作らないことが、神経回路を保つうえでいちばん効きます。
週3〜4回×1回1〜2時間を続けられるようになると、表現力や振りの吸収力は半年〜1年で安定してきますが、それは目標値であって開始条件ではありません。
始めるときは1日10分×毎日で十分です。
頻度を固めてから、1回の時間を伸ばしていきましょう。

恥ずかしさと停滞期の抜け方

恥ずかしさの根は、「他人からどう見られるか」という意識にあります。
ここは上達とは別の問題として扱うと整理しやすくなります。
スタジオでは全員が自分の動きに必死で、他人を細かく見ている余裕はありません。
その事実を知るだけでも、肩の力は少し抜けるはずです。
評価軸を過去の自分との比較に移し、できるようになったステップをメモしていくと、成長が見えやすくなります。

停滞期は必ず来ます。
特に3ヶ月目前後は、基礎が見え始めて自分の粗が分かる時期なので、落ち込みが集中しやすいのです。
ただ、それは目が肥えた証拠であり、実力が落ちたわけではありません。
この時期は新しい振りを増やすより、すでにできる8カウントを音を変えて踊る方が抜けやすいでしょう。
独学が続かないなら、週1回でも人と踊る場を持ってみてください。
自宅練習は頻度の確保に効きますが、自分では気づけないズレの発見と継続の強制力は、他者の目に勝るものがないからです。

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森山 遥

ダンスインストラクター歴12年。ヒップホップを軸にジャズ・ロック・ポップと幅広いジャンルを指導。「基礎ができれば何でも踊れる」がモットー。

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